2014年5月 vol.151
2014年05月10日
新緑が鮮やかな季節となりました。皆様も趣味やレジャーを満喫されていることと思います。
最近、多少景気が良くなったと言われますが、日本全体が平均的に良くなっているとは限りません。そこで思うのは、地方には地方の特色を生かした街づくりが必要なのではないかと痛感することです。全国どの街を訪ねても金太郎アメのように同じような光景が続き、何の違和感もなく目に馴染んできます。郊外にはスーパーやコンビニ、ファミリーレストランにドラッグストア、カーディーラー等のチェーン店が軒を連ねます。周辺に立ち並ぶ豪邸はその地主のお宅であるとすぐに察しがつきます。こうした商業集積は街の景色を変え地方の暮らしを快適にしてきました。一方で競争力を失った中心市街地はシャッター通りと化してしまい、高齢化と後継者不足で一個人商店の努力ではどうしようもない負の連鎖に陥っています。特に基幹産業や観光資源の乏しい自治体にとっては、手の打ちようがないのが現実ではないでしょうか。これは均一的成長路線の限界です。
先日、群馬県の富岡製糸場がユネスコの世界文化遺産の登録勧告を受けたことは記憶に新しい出来事の一つです。こう言っては失礼ですが、田舎町が急に工場操業時の活気を取り戻した瞬間と言っても良いでしょう。富岡製糸場は明治5年に官営の製糸場として操業が開始され、日本の近代化の幕開けの象徴として往時の姿を今に伝えています。そして、先ごろ、調査機関イコモスはその保存状態を奇跡的と評価したのです。製糸場115年間の操業の歴史のうち、工場は民間へ払い下げられ三井・原・片倉へと継承されました。最後のバトンを受け継いだ片倉工業は、昭和62年に操業を停止したのちも当時の姿での保存に努めてきましたが、平成17年に富岡市に建物一切を寄付し、後に土地を市に売買しその役目を果たしました。その間、片倉工業が年間の維持費に要した費用はおよそ一億円とも言われており、その企業努力に敬意を表したいと思います。しかし、実際の建物は老朽化も進んでおり、今年2月の豪雪により施設の一部が見るも無残に倒壊してしまいました。その未だ手付かずの状態を目の当たりにすると、早くも課題を突き付けられているような感じさえします。製糸場周辺は前述の例にもれずシャッター通りに近い状態であり、その分地元の期待も相当大きいものと思われます。問題は、この好機を持続的な成長と発展に変えられるかです。それには、また観光客に足を運んでもらえるような仕掛け作りが必要だと思います。
例えが不適切かもしれませんが、東京ディズニーランドのリピート率は実に97%と言われています。各地のレジャー施設が苦戦を強いられる中、驚異的な数字を保っているのは、そこでしか味わえない特別なストーリーと雰囲気があるからに違いありません。全国の観光地でも成功している場所に共通する点がいくつかあります。コンセプトが明確であり統一性を保っていること。そして、どこか懐かしさが感じられるところです。その時代を知らない世代でも懐かしさに浸れるのは人間のDNAなのでしょうか。人々は歴史やストーリー性に情緒的な豊かさを感じ、その町の持つ文化や風情そして周囲の自然に畏敬の念を抱くのだと思います。そのどこかノスタルジックにも似た雰囲気に触れ、非日常的な時間を過ごすことに特別な価値を見出すのでしょう。
我が国はかつて、一億総中流階級と揶揄されたように、全国津々浦々均一的な発展により奇跡的な戦後の経済成長を遂げてきました。その中で良くも悪くも開発が進み、いつの間にか地域の個性というものを失ってしまったのではないでしょうか。地方の再生に期待したいと思います。