2014年7月 vol.153
2014年07月10日
日本各地で大雨の被害が報告されております。梅雨明けが待たれる今日この頃ですが、皆様はいかがお過ごしでしょうか。
先頃、本年度の路線価が公表されました。毎回おさらいになりますが、路線価は相続税や贈与税を計算する際に用いられる土地の評価額であり、実勢価格とは異なります。実勢価格を100とすると、路線価はその8割程度、更に固定資産税評価額は7割程度に設定されています。そして、路線価の基準になっているのが毎年春に公表される地価公示価格です。地価公示が上昇すると路線価も連動するのが一般的です。春(地価公示)と夏(路線価)に地価が上昇したとの報道があると、何となく年中地価が上昇しているような印象を受けてしまいがちですが、実際のところはどうでしょうか。大都市圏を中心に地価は上昇に転じていますが、商業地や人気の住宅地等、上昇はまだまだ限定的なものです。宮城県内はというと、地価上昇率は2年連続で全国1位となりました。背景には震災の影響があるのは言うまでもありませんが、景況感の向上を受け、先行きへの期待感が投資へとまわり不動産取引をより活発にしていると言えます。
消費税の駆け込みが一段落した春先以降、住宅需要も一旦落ち着いたかに見えましたが、ここにきて持ち直しているように感じます。但し、同じ宮城県内でも場所の優劣が鮮明になり、一時のように何処でも売れる状況はなくなり建売住宅等の完成在庫も目立ち始めています。つまりは、震災前の状況に戻りつつあると言えます。参考までに宮城県内の昨年度の住宅着工戸数の推移を見てみると、各社軒並み2割から3割の前年割れとなっています。受注に対し着工が追い付かない現場の事情を割り引いてもピークは完全に過ぎたことが窺えます。
また、被災した高齢世帯では、住宅を再建できる経済力があったとしてもあえて住宅を求めない方が増えているそうです。背景には、住宅ローンや後継者不足等の将来不安があるようです。加えて、地価高騰と建設費高騰が住宅再建には逆風となっています。こうした中、地方を離れ子供世帯を頼りに仙台圏へ転居される高齢者が増えています。それを裏付けるのが近居や二世帯住宅を求める問い合わせの急増です。これも震災後の絆の表れと言えるかもしれません。互いに安心な上に、経済的にも合理的です。本来は、地方の自治体が特色ある街づくりを打ち出し、様々な生活支援を提案し人口流出に歯止めをかけなければならないのでしょうが、財政的にも人材的にもそんな余裕はどこにもありません。更に制度の矛盾が拍車をかけます。集団移転推進事業では、危険エリアの指定を受け従来の居住地に戻れなくなった方々のために、土地建物の購入費用を援助する制度があります。これは補助金として住宅ローンの利子を補給する等の制度です。ところが、この制度を利用して他の自治体に移転する方も少なくありません。補助金自体は国が支出するものとはいえ、他の自治体に転居する方に対し多額の支度金を用意する制度自体に問題があるのではないでしょうか。もちろん、そこには同自治体内で移転先が確保できないことや、集団移転を促進させ危険エリアを早急に整備しなくてはならないという歯がゆい事情が見え隠れしています。言葉を選ばずに言うと、政策により沿岸部の人口流出を助長しているようなものです。
商業地の地価は、本来であればもう一段回上昇してもおかしくないタイミングなのかもしれませんが、それにブレーキをかけているのが建築費の高騰です。東京都心の一部のようにそれらを吸収するくらいの市場があれば話は別ですが、仙台のような地方都市においては、これ以上地価上昇と建築費上昇が続けばほとんどの事業が成り立ちません。この状況をしり目に中古市場の上昇が続いてきましたが、これにも市場が冷静に反応しつつあり、昨年あたりを取引のピークとするならば、市場は若干膠着化しつつあります。
地価上昇は投資マインドを刺激し経済をけん引する効果が期待される反面、被災地で自主再建を目指す方々にとっては決して手放しで喜べない状況にあるようです。