2015年3月 vol.161
2015年03月10日
啓蟄を過ぎ、日増しに春の気配を感じる今日この頃、木々のつぼみも春の陽気に誘われ心なしか膨らんでいるように感じられます。
早いもので、あの東日本大震災から4年の月日を数えようとしております。復興も進み、当たり前の日常が戻って久しくなりますが、いまだ復興が遅れている地域との格差は広がるばかりです。災害公営住宅においても入居希望者が少ない物件もあれば、都市部では倍率が高く抽選となる物件もあるようです。一部の情報では、宮城県は復興住宅の整備が進んだことを前提に来年あたりを目処に民間の借り上げ住宅を打ち切りたいとの意向を示しているようです。借り上げ住宅制度が打ち切られると、そのまま入居継続が困難な世帯も多いと考えられますので、1年後、住み替え需要と空室増加の両面が一気に押し寄せる可能性があります。
さて、今回は税金について少し触れてみたいと思います。平成27年度は固定資産税評価の評価替えの年でもあります。震災後の不動産価格の上昇を受けて都市部を中心に評価額上昇が予測されます。但し、実際の固定資産税のもとになるのが課税標準額となりますので、ご自宅やアパートの場合は、小規模宅地の軽減を受けておりますので大幅に税額が上がることはありません。しかし、駐車場や事業用の貸家建付地等は軽減措置がありませんので評価額が上昇すれば税負担も増える計算になります。端的に言うと住宅用地の場合、その他の土地と比べ5分の1程の軽減を受けていることになります。固定資産税が自治体の税収に占める割合は、全体の半分とも言われ貴重な財源としての役割を果たしています。
同じ税金でも今年1月から事実上の増税となった相続税は国税です。相続税というと資産家に限ったことで庶民には無関係と思われがちでしたが、それは昨年までの話。この度の相続税改正に伴い、都市部で路線価の高い場所に住宅をお持ちの方や、それなりの金融資産をお持ちの方も対象になる可能性があります。偶然か否かはさておき、昨今の株高・不動産高騰は、多額の負債を抱える国の財政事情をかんがみると、政府の思惑と増税時期が絶妙なタイミングで合致したと言えます。これにより、相続税の課税対象者は従来の4%から10%程度に広がるとの試算がなされており、もはや人ごとではなくなりつつあるのです。
先日、来日を果たしたフランスの経済学者トマ・ピケティ氏の「21世紀の資本」ではありませんが、相続税の考え方の根幹には富の再分配があります。国々によって相続に対する考え方は分かれるところですが、我が国では家督相続の慣習が根強く、子々孫々と家や田畑を受け継いできた歴史があります。企業においても親族に事業承継されるケースが極めて高く、世界的に見ても我が国に100年以上の歴史を誇る老舗企業の割合が突出して高いのは、このような文化の違いに他なりません。
我が国は超高齢化社会をむかえます。今後、年間の死亡者数が現在の130万人規模から10年後には30万人以上増加するとの試算があります。平均寿命から推察すると相続人も高齢者であることが容易にうかがえます。今、その相続時に発生する家計資産の5割が首都圏等の大都市圏に移動すると言われています。背景にあるのは、高度経済成長期に地方から都市部へ集団就職等で人口が流出し、現在も大都市圏に居住する方々が相続のタイミングをむかえるからです。私どもの実務においてもうなずける事例が増加しております。例えば、後期高齢者の方が所有するご自宅があるとします。お子様方はそれぞれ独立し大都市圏に居を構えておられます。相続が発生すると、一旦は相続人が共有名義で相続しますが、遠隔地におられることから中々管理が行き届きません。賃貸住宅や駐車場経営等の事業意欲が相続人間で一致すれば別ですが、それぞれに家庭環境も経済事情も異なります。更に次世代に相続することになれば、血のつながりも薄くなり当事者が増えれば意見調整も簡単ではありません。そこで下した決断が相続した不動産の売却です。当然のことながら、その資金は相続人の居住地に移動することになります。売却代金や金融資産が地元の金融機関から都市部の金融機関へ移動することになると地方銀行にとっても死活問題です。この資産流出率の高い都道府県の上位に東北の太平洋側各県があがりました。もちろん宮城県も例外ではありません。政府が掲げる地方創生を目指す地方にお金が残らないという皮肉な試算です。都市部と地方の経済格差には長い年月において構成された複雑な事情があるようです。