2015年11月 vol.169
2015年11月10日
早いもので今年も残すところ2ケ月を切りました。落ち葉が舞い落ち、少しずつ冬の足音が聞こえてくる毎日ですが皆様はいかがお過ごしでしょうか?
先日、建設・不動産業界を震撼させるニュースが飛び込んできました。連日のように報道されている横浜のくい打ちデータ改ざんによるマンション傾き問題です。欠陥工事によるトラブルで世間を騒がせた事例は過去にも複数ありましたが、今回、これほどまでに加害者側が矢面に立たされた例は、あの姉歯事件以外にあまり記憶がありません。余談ですが、姉歯氏が私のようなありふれた名前でしたら別の事件名が付けられたのではないかといつも思うのです。まさか「鈴木事件」とは呼びませんね。それにしても、今回のマンション傾き問題の報道ではタイミングが悪かったというか、この間これといったビッグニュースが少なかったせいもありマスコミ各社は横浜の事件を追い掛け回しました。被害に遭われた住民の方々にはお気の毒と言う言葉しか見つかりません。一方、ごく一部の人間の仕業により、加害者側の会社で真面目に働いている多くの社員に対しても世間からの風当たりは強くなるでしょうから、それはそれで気の毒ですし、同じ業界に身を置く人間として他人事とも思えません。幸いというか、仙台市内のマンションでは、くい打ち工法の現場はそれほど多くないと聞いております。それにしても、ゼネコンにデベロッパー、更にはマンション管理会社などは各方面からの問い合わせや対応に追われていることに違いありません。
ところで、このデータ改ざんですが、他にも複数の現場で行われていたことが判明しました。それどころか、当初は一人の担当者の仕業とされていたものが、実は組織的に常態化して行われていた可能性さえ指摘され始めたのです。前出の姉歯事件は、構造計算の改ざんが行われ検査機関がそれを見抜けなかったことに問題がありましたが、今回は工事現場での出来事であり根本的に問題の質が異なります。故意か過失かはともかくとし、工期が厳しく管理され制約を受ける現場においてこのような事案は少なくは無いのだと思います。実際には、施工不良が表面化しないまま瑕疵担保期間や寿命をむかえる物件もあるでしょう。そういう意味において傾きは必然だったのか、それとも東日本大震災を含め様々な要因が複雑に重なり合った結果に起きたことなのか、これを立証すること自体非常に困難なことだと思います。
更に日本の建設業界の多重下請構造が責任の所在を複雑にしているとも言えます。例えば米国では、ゼネコンのような総合請負業が少ない為、施主がそれぞれの工事業者に対し個別発注します。その分、中間経費が発生せず割安で建物が建てられます。元請、下請け、孫請けこれらの構図は服従関係にあると言っていいと思いますが、一見、元請が全責任を負っているように見えて、このように一企業では手に負えないような問題が発生すれば責任のなすり合いと化してしまうのが実態です。建設業界では、バブル崩壊や公共事業の削減により優秀な職人や管理者を放出した過去があります。その後の東日本大震災や東京五輪の決定を受け、業界に神風が吹いたのもつかの間、慢性的な人材不足が収益性や現場管理を圧迫しているようにも思えます。管轄する国土交通省も今回の事態を重く受け止め、調査に乗り出すとの姿勢をアピールしておりますが、本音はと言うと、ドミノ式に次から次に問題が発覚し収拾不能になることを恐れているのではないかとも囁かれています。確かに、権利関係が複雑なマンションはもちろんのことですが、公共施設や大規模なビルにまで問題が飛び火するようなことがあれば、世間に与えるインパクトは計り知れないものがあります。
宅建業法や建築基準法、更には建設業法から建築士法、関係する法令が多い上に住人の権利調整と移転先となるキャパシティの問題等、解決まで長期化は避けられそうにありません。