2017年11月 vol.193
2017年11月10日
秋の深まりと共に紅葉の見ごろも佳境を迎えますが、朝晩の寒さには冬の訪れさえ感じるこの頃です。季節の変わり目です。皆様風邪などひかぬよう十分にご注意下さい。
さて、先ごろ2年ぶりとなる東京モーターショーが開催されました。世界的トレンドとして、環境への取り組みと自動運転技術が進化を遂げ、近未来を先取りしたコンセプトカーの出展の多さが目立ちます。また、昨今の世界的好況を反映してのことか、高級車やスポーツカーブランドからは、より高性能で高出力のモデルの発表が続いております。が、しかし、大排気量のガソリンンジン車によるパワーウォーズもそろそろ終焉を迎えるのではと感じる点がいくつかあります。その一つがダウンサイジングとハイブリッド化などの環境問題への取り組みです。それもそのはず、電気自動車の台頭により、安価でガソリンエンジン車と同等の性能を提供することが可能になったのですから。あと10年もすると純粋なガソリンエンジンで走るスポーツカーは存在しなくなるのではないでしょうか。もちろん、エンジンサウンドが良いなどというマニアックな世界観は皆無に等しくなるのだと思います。そして、自動車産業は大きく三極化すると考えられます。耐久消費財としての車本来の役割を果たす大衆実用車、次に高性能を売りにする高級車、更には世界のセレブリティをターゲットにした数千万から億単位の超高級車に分類することができます。もちろん、超高級車のカテゴリーでは歴史に裏打ちされたヨーロッパ勢が独占状態にあり、我が国はその他のカテゴリーで勝負することになるでしょう。
昨今、世界的には急速に電気自動車支持への機運が高まりつつあります。ヨーロッパや中国、アメリカの一部の州までもが電気自動車へのシフトを表明し始めたのです。国によって様々ですが、具体的に年時目標を掲げ全ての自動車を電気自動車に移行させたいとする国もあれば、段階的にメーカーに対し電気自動車の供給比率を義務づける国などがあります。少なくとも、今後も多くの需要が見込める中国やインドなどの国策を世界各国の自動車メーカーが固唾をのんで見守っているものと思われます。新興国がこれまでのガソリンエンジン車で歴史ある欧米や日本のメーカーと互角に渡り合うにはその技術差は歴然でしたが、パーツも少なく開発も組み立ても比較的容易な電気自動車の分野で主導権を握ることは射程内と言えます。戦後、日本の物作りの象徴として国内自動車メーカーは低燃費で壊れにくい高性能車を世に送り出し、世界の自動車市場を席巻しベンチマークとされてきました。その延長線上で、ガソリンエンジンと電気モーターの融合技術によるいわゆるハイブリッド車においても世界をリードしてきた日本メーカーでしたが、これまでの優位性は急に押し寄せた電気自動車の波を受け、次の世界基準をめぐる動きに翻弄されつつあります。
世界基準の覇権争いの中で、日本を代表する産業である自動車産業には、急速な世界の変化を簡単には受け入れ難い構造的問題を抱えているとも言えます。3万点ものパーツで構成される自動車は裾野の広い産業とされ、今や製造から販売、損害保険など自動車関連産業に従事する人々は実に550万人、全労働人口に占める割合は8%強とされています。ところが、世界標準が電気自動車にシフトするとなれば、その弊害として自動車パーツの数は3分の2、いや3分の1にまで減少するとされており、我が国の物作りが岐路に立たされる可能性さえあります。
量産のガソリン自動車が開発されて130年余り、それ以前は蒸気自動車、更に遡れば馬車が主役でした。同じ移動手段も技術革新と時代のニーズにより大きな変化を遂げてきました。正に今、100年に一度の時代の変革期に直面しているのです。単に環境問題というと聞こえも良いですが、車一台の電力消費量はあまり表立って議論されておりません。このような大義と引き替えに、資源貧国である我が国が原発依存を更に高めてゆくとするなら、これを嘆かずにはいられません。