2020年3月 vol.220
2020年03月10日
新型コロナウィルスが全世界に影響を及ぼしております。連日加熱する報道は、世紀末の映画のワンシーンを見ているかのようです。緊急事態であることに疑う余地はありませんが、マスコミは声高に不安を煽り、ワイドショーのコメンテーターの稚拙かつ無責任な意見は不快以外の何物でもありません。この事態に政府は学校の一斉休校を要請する異例ともいえる判断を下しました。これにも賛否様々な意見が乱れ飛んでいるようですが、私はこの英断を評価したいと思います。もちろん、計り知れないほどの経済への影響が懸念されますので、とにかく一日も早い事態の収束を願うばかりです。
さて、本題に移りますが、今回は4月1日から施行される民法の一部改正について要点を抜粋してお話ししたいと思います。その民法ですが、日常の契約行為における規定は明治時代からほとんど変更がなく、今回の改正は実に120年ぶりとなるそうです。これまで賃貸借契約に関する敷金の取り扱いや原状回復については民法上明確な規定がありませんでしたが、今回の改正で新たに明文化されることになりました。これにより、敷金については賃貸人が賃貸借契約終了時に物件の返還を受けた際、賃料などの未払いがない限り返還しなくてはならないことになりました。これまで敷金をめぐるトラブルでは、判例の積み重ねによる解釈と国交省作成の原状回復トラブルガイドラインで周知を図ってきましたが、今回の民法改正に伴い、賃借人は通常使用による損耗や経年変化について原状回復義務を負わなくてもよいことになります。この点は、ここ十数年で不動産業界の原状回復に関する考え方も大きく変化してきましたので、それほどの違和感は無くなったと思いますが、大家さんにとっては多少の負担増となりそうです。
一方で、たばこのヤニや故意過失による傷・破損など、従来通り通常の損耗や経年変化に当たらない例もありますので、このあたりのジャッジは私ども管理会社の仕事になります。また、予めトラブルを防止する観点から賃貸借契約への追記事項も加わりました。当社では顧問弁護士と相談し民法改正に対応する約款の見直しを行い4月1日以降の新規契約に備えております。
前述の敷金の取り扱いは退去時のことですが、入居中に想定されるケースでは、賃貸物件で一部使用不能となった場合の解釈が変わります。物件に一部使用不能(例えば給排水トラブルや設備故障など)が生じた場合、現行民法では賃借人はその割合に応じて賃料減額請求できるとされておりました。しかし、実務上は賃貸借契約書において、一部使用不能の事態が生じた場合でも賃料減額請求できない旨を明記することで回避してきました。新法では一部使用不能の場合、その割合に応じて賃料が減額され、事態を放置すると有無を言わさず賃料が減額されることになります。もちろん、どの管理会社も迅速な対応を心がけているわけですが、今回の新型コロナウィルスによる住宅設備部品の供給不足(現時点でもIHヒーターや給湯器などの供給待ちの状態が続いております)の影響が生じないことを祈ります。
もう一点、債務の保証についてもルールが見直されます。これまで、賃借人の債務不履行に備え、賃借人に連帯保証人を求めた場合、巨額な賃料滞納や原状回復費用など、保証人が予想外の損害賠償請求を強いられることがありました。しかし、保証人保護の観点から今回の改正により極度額の定めのない根保証は無効となります。これにより、賃貸借契約では保証人に対し予め保証債務の極度額を明確に定めておく必要がでてきました。また、主債務者の死亡の他、保証人の破産や死亡の場合は、その時点で主債務の元本が確定する為、その後に発生する主債務は保証の対象外となります。
この新法の施行は4月1日からとなりますので、それ以前の契約は旧民法が適用されます。また、新法施行日以降に賃貸人と賃借人の合意のもと更新された契約には新法が適用されますので注意が必要です(当社の一般的な賃貸借契約書は自動更新の為、4月1日以前の契約も旧民法の適用となります)。