2020年7月 vol.224
2020年07月10日
梅雨空が続く中、編集の途中で令和2年7月豪雨の大変なニュースが飛び込んできました。被災された地域の皆様には謹んでお見舞い申し上げます。被災地の一部人吉には、何年か前に観光で訪問した記憶があります。球磨川沿いに近代的旅館が立ち並び古い町と融合した温泉街で情緒豊かな佇まいが印象的でした。その美しい町並みと日常が一日も早く戻ることを心よりお祈り申し上げます。
さて、7月1日国税庁から路線価が発表され、宮城県は全国3位の上昇率を示しました。ちなみに、長年東北のトップは、64年連続で仙台市青葉区中央1丁目青葉通りの旧さくら野百貨店前の318万円/㎡で、都道府県庁所在地の最高路線価中では11位となっております。また、上昇率では仙台市青葉区本町2丁目の江陽グランドホテル前の広瀬通りが18.8%プラスと最も高い数値を示しました。言うまでもありませんが、全国トップは銀座鳩居堂前の4592万円/㎡です。下世話な話ですが、東北のトップ仙台市青葉区中央1丁目(青葉通り)を都内の税務署別最高路線価に当てはめてみると大田区西蒲田7丁目(蒲田駅西口本通り)、世田谷区玉川2丁目(玉川通り)あたりの水準と相似します。毎年何かと話題の多い路線価ですが、1月1日時点を基準にしているため、コロナ禍の影響は反映されておりません。そもそもこの路線価は春に発表される地価公示がベースとなっているため、地価公示が上昇を示した流れを汲めば全国的な路線価上昇は容易に予想できるものでした。
関心は、今後の実際の地価動向ですが、この辺りを考えていきたいと思います。つい先だって、富士通がグループ企業を含め向こう三年間でオフィスを半減する方針を明らかにしました。緊急事態解除後もテレワーク等を継続し、オフィスの固定費を削減する狙いがあるものとみられています。業種業態にもよりますが、今後も大手企業を中心にこのような動きが活発化するかもしれません。これまでのインバウンド需要と世界的金余りを背景に投資マネーが都心のオフィスやホテルなど大規模開発を活発化し、こうした開発エリアを中心に地価上昇を後押ししてきました。今後も供給が続くオフィス床面積に対し、企業のオフィス需要が変化すれば需給関係は急激に暗転します。大量の空室予備軍はオフィスの合理化だけにとどまりません。コロナ禍により廃業に追い込まれ撤退を余儀なくされる店舗、その多くが後継テナントの無いまま空室になる可能性があります。また開発用地争奪戦にも一定の終止符が打たれれば、これまで地価をけん引してきた市街地にも何らかの影響が出ることは必至と考えられます。今のところ、政府の支援策や緊急融資などでギリギリ経済が持ちこたえている状況ですが、市場の回復が長引けば、今後、機能不全となった不動産の投げ売りが中小規模を中心に出てくる可能性も考えられ、マーケットにマイナスの影響を及ぼすことは想像に難しくありません。
住宅地はどうでしょうか?これまで建売業者を中心に積極的な仕入れが展開されてきました。コロナ禍では仕入れに慎重姿勢を示す業者も一部ありましたが、全体としては引き続き取得意欲旺盛のように見受けられます。その弊害というべきでしょうか、エンドユーザーに土地情報が行きわたらず、結果として高額な取引事例を生んできました。この傾向はもうしばらく続くのではないでしょうか。専門家からは、コロナ禍での将来不安から住宅取得マインドの落ち込みを指摘する声も聞かれます。実際にこうした取得意欲の低迷が地価下落に直結するとの考えもありますが、土地なしのエンドユーザーの潜在的需要は底堅く、鉄道沿線や再開発エリアなどの人気のある住宅地を中心に地価の高止まりは続くものと考えられます。一方で、それ以外の成熟エリアでは今後地価の下落が急速に進み、地価の二極化は避けられないでしょう。また、興味深いのは、昨今のテレワーク需要により郊外や田舎暮らしが見直されている点です。10年前では考えられなかったことですが、ITの普及によりZOOMなどのリモート会議や商談がどこに居ても可能となりました。画面を通じある程度の意思疎通や資料の共有ができるため、嗜好性とコストパフォーマンスの高い別荘地や古家の活用にも期待が高まっています。世の中の激変は、めぐりあわせにより大きなチャンスを生む場合があります。奇しくもコロナを機会に、様子見相場から一転、膠着状態の均衡が破られ市場が活発に動く可能性が高まりました。そして、これらの状況が反映されれば、早ければこの秋の地価調査、そして来春の地価公示にはマーケットの変化が表れることでしょう。