2022年7月 vol.248

2022年07月08日

 

 日本列島は観測史上最短での梅雨明けとなりました。連日うだるような暑さが続いておりますが、暑さ対策は万全でしょうか。

 

 さて、7月1日に国税庁から2022年度の路線価が発表されました。前々回のコラムでは、過度な相続対策による路線価評価を否認した最高裁判決を取り上げましたが、路線価は相続税や贈与税の算定基準のために定められているものです。通常、路線価は実勢価格の8割程度に設定されており、割り戻すことで実勢価格の目安を知ることができます。但し、昨今の地価上昇局面では路線価が追いつかず、特に商業地や高級住宅地などでは、路線価の倍以上の価格がつくことも珍しくありません。一方、リーマンショックなどの不況下では、路線価を下回る価格が相場を支配していたことも記憶にとどめておくべきでしょう。

 

 そんな路線価ですが、全国平均では2年ぶりの上昇に転じました。都道府県別では20都道府県で上昇を示し、コロナ禍による影響が縮小した形となりました。実際に、観光地や商業地など、昨年まで下落幅が大きかった地域にも回復の兆しが見られます。観光地ではインバウンドへの依存度が明暗を分けたようです。人出が戻ったエリアは、コロナによる行動制限がなくなったことでSNSなどが起爆剤となり、若い世代を中心にインバウンドの減少を好機とばかりに国内観光へ回帰し、新たな需要が喚起されました。

 

 都道府県別上昇率では、北海道がプラス4.0%と最も高く、次いで福岡のプラス3.6%、わが宮城県は5年連続の全国3位のプラス2.9%で依然として高い上昇率をキープしています。また、前年マイナスだった東京、愛知、大阪の大都市圏もプラスに転じています。

 

 上昇率で東北トップとなったのは仙台市太白区のあすと長町大通の6.7%でした。この数字が示すように近年の商業施設と大規模マンションの集積は目覚しい発展の象徴と言えます。東北の最高路線価地点は、66年連続で仙台市青葉区中央の旧さくらの百貨店前青葉通りで、昨年全国1位を示した上昇率には及ばなかったもののプラス2.7%と依然として高い数値を示しています。ちなみに1㎡あたりの単価は339万円ですので、坪単価に換算して1120万円以上となります。言わずもがなですが、この周辺相場は路線価の倍以上の地価と言えるでしょう。

 

 今や誰もが知る、路線価のトップは東京銀座鳩居堂前銀座中央通りですが、1㎡あたり4224万円で、37年連続不動の全国1位ということになります。それでも下落は2年連続で、少なからずコロナによる影響を受けたと言えます。

 

 不動産には相場があり、景気に左右されやすいことは言うまでもありませんが、コロナ禍に円安、ウクライナショックなどのマイナス要因があるにも関わらず、市場が崩壊しないのはなぜでしょうか?低金利による金余り、日本の不動産は海外の都市と比較し割安とも言われます。どちらも正しい答えだとは思いますが、私は消費マインドにあると考えます。なぜならば、相場が上昇しているときほど、周囲に乗り遅れまいとする消費者心理が働くからです。そこに需給関係が複雑に絡み合います。上昇率がプラスを示しているエリアの多くは、鉄道の延伸や周辺開発が大きく寄与しています。また、都市部の場合は市街地への都心回帰とも言える状況があります。利便性の高い場所に人が集まるのは当然の原理ですが、大都市圏では既に市街地が形成されており、誰もが望む場所の未利用地は皆無と言ってよい状況です。新たな供給は市街地の再開発や郊外の区画整理に頼るしかありません。都内を例に挙げれば、マンションの供給量が減っているのは需要が無いから作らないのではなく、マンション適地が少ないため作れないのです。そのため、好立地の中古マンションが分譲当時の価格を超えて取引されています。

 

 この相場がいつまで続くかは誰にも予想困難です。しかしながら、金利上昇や諸物価高騰は消費心理を左右させるに違いありません。アフターコロナによる消費の優先順位は変化し、不動産に対する優先順位が後退するのではないかと懸念しています。