2023年8月 vol.261

2023年08月10日

 熱波と呼ぶにふさわしいほど、全国各地で連日のように猛暑日が続いております。東北では、短い夏を彩る夏祭りの多くが4年ぶりに制限のない中で開催され、コロナ前の賑わいを取り戻したかのような盛り上がりを見せました。

 

 さて、前号から引き続きの話題となりますが、今号ではタワマン節税についてもう少し具体的に見ていきたいと思います。昨今は相続税の基礎控除が縮小し、相続税の課税対象者のすそ野が広がっています。特に大都市圏の不動産は単価が高いだけに、狭小地でも億単位の評価になることも珍しくありません。特にバブル期以前に取得した不動産は今とは全く相場が異なりますので、地域によっては相当な含み益が発生します。当然のことながら、預貯金や有価証券なども相続財産に加わりますので、法定相続人の数や資産背景によっては、中流階級と言われる方々でも課税対象者となり得ます。

 

 不動産の相続評価は、原則として土地は路線価、建物は固定資産評価となります。ちょうど前号でも触れましたが、路線価は実勢価格の8割程度に設定されています。建物の固定資産評価は構造にもより異なりますが、新築時は建築費の5割から7割程度と評価されるのが一般的です。単純に1億円の預貯金があれば同じ1億円として評価されますが、不動産の場合は流動性が悪いためこのような評価基準になっているものと考えられます。ここに借家権や借地権など、他人の権利が付くと評価は更に下がります。1億円の現金が土地や建物に変わることで評価は半分程度になることもあります。アパート経営などの場合の多くは、借り入れを伴いながら資産形成をしてゆきますので、借り入れ(負債)と評価(資産)の差額が圧縮効果となります。正に不動産は相続対策の王道と言うことができますが、記憶に新しいところでは、過度な相続対策を否認された例で、最高裁判決により納税者が敗訴し話題となりました。

 

 前述は土地建物の例ですが、タワマン節税の場合は、時価と評価額の乖離が更に大きくなることが肝となります。俗にいうタワーマンションの場合は、土地に対する容積率を最大限に用いて建築されるため、一等地と言えども土地の持分が極めて少なくなります。更に建物評価は階層に関係なく面積でひとくくりにされるため、販売価格に対しかなり低く評価されます。端的に言えば、最上階南向きの部屋でも最下層北向きの部屋でも面積が同じであれば、土地持分も同じのため、同様の相続評価が付されます。ところが、販売価格においては、階層が上に行くほど価格が高くなり、方位や眺望によっても価格が異なります。特に都心のタワーマンションともなれば、眺望は大きな付加価値となりますので、高層階と低層階では大きな価格差が生じます。極端な例ですが、販売価格が1億円の最上階南向き住戸と2階北向き5千万円の住戸でも、面積が同じであれば評価上は同額で評価されてきたのです。仮に何れの評価も3千万円とした場合、両者の市場価格との乖離は一目瞭然で、市場価格の高い高層階住戸ほど評価との乖離が大きくなるのです。 

 

 2017年の法改正前では、これまで低層階も高層階も同様に評価されてきた販売価格との乖離が浮き彫りとなっていたため、高層階ほど評価が高くなるよう評価方法に修正が加えられましたが効果は限定的でした。前回の改正以後、市場価格の上昇なども受け、富裕層にとって行き過ぎた節税となっているとの指摘から、今年度の税制改正大綱で適正化が検討されています。新評価法では、「築年数や階層などから市場価格と評価の乖離を計算し、一定の水準値を掛けて算出」する案が有力視されています。適用は2024年の相続贈与からとなる見通しで、今回の改正により評価は現行の2倍程度に跳ね上がることも想定されます。そして、新評価法はタワーマンション以外の全てのマンションにも影響が及ぶものと見られています。いつの時代も税務署と納税者のイタチごっこは続きます。