2024年6月 vol.271

2024年06月10日

 6月に入り当社は第51期目の事業年度を迎えました。昨今の市場環境の変化により、不動産を取り巻く環境も混沌として参りましたが、新年度も微力ながら皆様のお役に立てるよう努力して参ります。

 

 さて、我が国も金利のある世界が現実的なものになってきました。日銀は3月のマイナス金利解除時点においても「緩和的環境を続ける」ことを明言し、事実上の金利据え置きともとれる発言が、その後の円安を加速させたことは記憶に新しいところです。この歴史的円安の中、財務省は2年ぶりに為替介入を行なったことを明らかにしましたが、これも風前の灯で効果は限定的でした。報道などでは、今日の円安は日米間の金利差がもたらした結果との論調が目立ちますが、このままアメリカ経済の減速を待つのか、日銀がさらなる利上げに動くのか難しい判断が迫られます。

 

 そして、長きにわたりデフレに苦しんできた我が国にも世界的な急速なインフレの波は容赦なく到来し、我々国民は経済環境の激変に翻弄され、物価高による消費の落ち込みによる負の連鎖に陥りつつあります。以前にもお話しましたが、昨今の経済の主役は株高・不動産高・為替差益です。このカテゴリーに属した特定の人々がその恩恵を受け、大きく資産を増やしたと言っても過言ではありません。我々が関わる不動産の世界では、最近の住宅ローン金利の動向に注目が集まっています。昨今の地価上昇と建築費高騰による住宅市場は、辛うじて低金利とパワーカップルに下支えされてきたと言っても過言ではなく、金利上昇のイメージが先行するあまり消費マインドへの悪影響が懸念されます。中古市場も新築に連動し高値相場が続いて来ましたが、ここにきて息切れが見られます。中古市場は新築に比較し購入者の平均所得が低い傾向にあり、所得との乖離の影響を受けやすいと見られています。したがって、相場の下降局面では中古市場が先行すると考えられています。地価は株価同様経済指標ではありますが、ここまで地価が高騰してしまうと流通の停滞を招く恐れさえ懸念されます。

 

 本質は全く異なりますが、地価高騰で脳裏をよぎるのはバブル期の総量規制です。これは、投機目的の横行が招いた地価高騰を抑制するために当時の大蔵省が金融機関への不動産関連向け融資を抑えるよう求めた行政指導でした。バブルのピークであった平成2年から約2年間にわたり続いたこの世紀の愚策が、地価を抑制させるどころか、急激な経済の逆回転をもたらし、結果的にその後の失われた20年、30年の引き金を引いたと言われています。更に根深いのは、当時、農協やノンバンク系の住宅金融専門会社(住専)は行政指導の対象外となっていたため、銀行などからの迂回融資が乱発された裏事情です。しかし、バブル崩壊後の地価下落に歯止めがきかず、資金回収の滞りから不良債権は雪だるま式に増え続け、日本経済を混乱の渦に飲み込んだのです。当時の投機と昨今の市場の過熱は似て非なるものですが、金利上昇が続けば不動産市場に与えるインパクトは少なくありません。3月のマイナス金利解除のタイミングでは、大手不動産株が一気に値を下げたことからも見て取れるように市場は敏感です。

 

 前々回は投資用不動産の期待利回りについて述べましたが、金利が上昇すれば資金調達コストが上がりますので、少なからず市場の求める利回りは上昇するでしょうし、ことさら地価が踊り場を迎えるとの観測が広がれば、更に期待利回りは上昇し、売り側と買い側の期待値に大きな乖離が生じます。

 

 首都圏や大都市圏のマンションでは、円安を追い風に外国人投資家の購入意欲が旺盛で、購入を躊躇せざるを得ない実需のファミリー層を尻目に平均価格を押し上げています。一方で、こうして市場にリリースされた空室はマンションのコミュニティや賃貸相場などにも影響を及ぼすものと考えられます。また、仙台のような地方都市では投資家のパイが限られるうえ、実需のファミリー層の所得の伸び悩みなどで、住宅市場は地価高騰の報道をよそに苦戦を強いられています。追い打ちをかけるようなタイミングでの金利上昇は、年収に対しての借入可能額いわゆる返済比率にも影響が及びます。仮に5000万円の住宅ローンを35年で返済計画を立てた場合、1%の金利上昇で返済額は年間で30万円程の支出増となるわけですから物価高の中では家計への影響も少なくありません(*ほとんどの方が変動金利を選択しており、今のところ急激な金利上昇は無いと思いますが)。皮肉にも我が国が目指す「物価上昇目標」の活字の影で経済の逆回転が始まっているように思えてなりません。