2024年7月 vol.272
2024年07月10日
本来ならば梅雨真只中でありますが、宮城はどうやら空梅雨のようです。各地から豪雨と熱波のニュースが届きますが、お天道様はもっとバランスよく雨を降らせてくれないものでしょうか。
7月1日、今年も国税庁から路線価が発表されました。路線価は相続税や贈与税の算定基礎となるもので、宮城県は全国5位となる5.1%の上昇率を示しました。東北の地点トップは押しも押されもせぬ青葉通り旧さくら野百貨店前の1㎡あたり363万円で4.6%のプラスとなりましたが、坪単価に換算すると実に1200万円ということになります。路線価は実勢価格の8割程度と位置付けられていますが、当該地のような中心市街地では路線価の2倍から3倍以上の値が付くことも珍しくありません。上昇率トップは福岡県で、次いで沖縄県、東京都、北海道、宮城県の順と続きました。一方で下落率が大きかったのは和歌山県、愛媛県、富山県の順でありました。上昇地点のインバウンド需要や都市機能のポテンシャルが評価された一方で、人口減少に歯止めがかからない地方との格差を表した結果と言えます。ちなみに全国の最高額は、39年連続で東京銀座鳩居堂前の銀座中央通りの1㎡あたり4424万円で昨対比3.6%の上昇となっています。
地価や建築費のほか、公租公課や光熱費、人件費などの物価上昇を反映し、当然のことながらその余波はビルや共同住宅などの新規募集賃料にも波及しています。注目すべきは需要と稼働率の市場性ということになるわけですが、皮肉にも地価上昇の相乗効果で投資対象となった大都市圏や地方の中核都市では、オフィスビルなどが大量供給された結果、既に空室が目立ち始めているとの現実に直面しているようです。そのしわ寄せは規模の大小を問わず既存ビルに及ぶのも当然です。中小零細のビルでは、テナントの移転に伴う空室率の悪化と既存賃料の値上げにも苦慮し、諸物価の高騰にもかかわらず価格転嫁できず厳しい経営を強いられる物件も少なくないはずです。もちろん、一世を風靡した大規模ビルでさえ、エリアとビル自体に特色を併せ持たないと空室を埋めるのに困難な時代に突入しました。ビル内にコンビニやカフェなどのナショナルチェーンが軒を連ねたとて、もはやアドバンテージとは言えず、防災やコミュニティ施設の充実に加え、街自体にアフターファイブを満喫できるような魅力を兼ね備えているか否かが大きく入居を左右すると言われています。
新築アパートやマンションも募集賃料が大幅に上昇していると言えますが、大都市圏では一部の富裕層向けの超高級賃貸の特需や、分譲マンションの価格高騰に伴う高級賃貸への住み替え需要もあると報告されています。一方、円安と物価高で5月時点での実質賃金は26ヶ月のマイナスが続いており、この停滞感が招く住み替え意欲の低下は避けられそうにありません。
建設現場における2024年問題では、働き方改革関連法により時間外労働の是正が求められ、マンションなどの工期は従来比で3割増になるとも言われています。工期の延長は建築費に大きく影響し、物価スライド特約が浸透しづらい民間工事では請負側に物価上昇リスクが伴うため、仕事量が減少する業界において積極的に受注できない皮肉な構図が見られます。この状況下では建築費の高止まりもしくは更なる上昇は避けられず、既存の中古物件の流通対応年数は再評価され、昨今のSDGsの流れも加わり中古物件は存在感を増すことが予想されます。バブル期にも建築費は高騰したと記憶していますが、価格に比例し時代を象徴するほどのゴージャスな意匠が今もなお印象的です。バブル崩壊後の不遇の時代の建築物には一生懸命作り込まれた形跡を感じます。現代では高額な建築費の割にコストダウンの跡が随所に見られるのが残念です。そして、将来的には建築した年代で物件が評価される時代がやってくるのではないかと考えています。