2024年10月 vol.275

2024年10月10日

 10月だというのに真夏日を記録したり、長雨が続くなど、季節が1ヶ月ほど巻き戻された印象を受けますが、それでも町角のキンモクセイの香りや、朝晩の冷え込みに少しずつ秋の気配を感じるこの頃です。

 

 先ごろ、全国の地価調査の概要が公表されました。「地価公示」が地価公示法に基づき、国土交通省土地鑑定委員会が毎年1月1日における全国の標準地の正常な価格を判定し公示するのに対し、「地価調査」は、国土利用計画法に基づき、都道府県知事が毎年1回、各都道府県の基準地について基準日(7月1日)における標準価格を判定し公表するものです。主として、半年間の価格変動を補完する制度と考えて良いと思います。

 

 今年の地価調査では、我が宮城県における全用途の平均変動率は2.2%で、12年連続の上昇を示しましたが、上昇率は前年より縮小しています。地域別では、仙台市が7.1%で13年連続の上昇となりましたが、こちらも上昇率は縮小しました。一方で、周辺の市町村の上昇率は拡大しました。この数字と実務上の肌感覚を照らし合わせて見ると、次のようなことが読み解けます。地方四市の一角である仙台市内の地価は、全国的トレンドに乗って上昇を続けましたが、昨今の物価高の影響を受け高止まりという表現というよりは、頭打ちが見えてきたと言えます。それでも、13年間の上昇が物語る通り、地下鉄やJR沿線の地価は、既にサラリーマンが簡単に手を出せる金額ではなくなりつつあります。そこで、仙台市内より安価な周辺市町村へ住宅需要が拡散した結果が数字に表れたと言えます。これまで市場を下支えしてきた低金利も上昇基調に突入している今、建築費高騰が足かせとなり、消費マインドの落ち込みにより今後の地価上昇率は更に縮小するものと予想されます(まだ、調整局面というほどの基調の変化は見受けられませんが)。

 

 これまで、「土地がない」が不動産業者間では合言葉のように用いられてきましたが、特にエンドユーザーに土地情報が行き渡らなかったのは、好調な住宅市場を背景に各社が積極的に土地を仕入れ、販売用不動産として供給してきた点が一因として挙げられます。しかし、ここにきて各社が仕入れにも慎重な姿勢を見せ始めており、やっとエンドユーザーにも情報が届き始めた矢先、過熱した流通価格と建築費高騰の影響を受け、方向転換を余儀なくされた一部の需要が中古市場に流れ込み相場を底上げしている構図が窺えます。この動きは、特に新築の供給量が少ない大都市圏ほど顕著です。 

 

 一方、労働賃金の低い地方は実質賃金の伸び悩みもあり節約志向に拍車がかかります。地方の金融機関も大都市圏に後れを取る形で、40年、50年の超長期住宅ローン商品で潜在需要の掘り起こしに躍起ですが、当然、市場の小さい地方の方が担保割れを起こすリスクは高いと言えます。

 

 宮城県の全用途では、商業地、工業地の上昇率が前年より拡大しています。事業系が住宅市場の上昇率縮小を尻目に上昇率拡大を示している要因は何でしょうか?既に市街地が形成されている商業地では、マンションやホテル、ビル向けの事業用地の希少性が高いゆえ、適地と目されるいわゆる一等地の需要は旺盛です。背景にはインバウンド需要を見込んだ開発も多いと考えられます。更に、2024年問題に代表される物流拠点の特需や工場の国内回帰などで、極端に言えば都市近郊の工業地は、大きければ大きいほど需要があると言っても過言ではありません。当然のことながら、商業地、工業地を取得するその多くは大手企業であり、大都市圏での用地取得が物価高騰や競合激化で事業化が困難になっているため、投資効率の良い地方へ触手を伸ばしているとの見方もあります。

 

 最後に、宮城県内に激震が走ったとも言うべき非常にショッキングなニュースが飛び込んできました。SBIホールディングスと台湾のPSMCとの半導体合弁事業が白紙となり、自治体や関係者の間では落胆の声が広がっています。連動して周辺の地価もその期待値から上昇を記録していただけに上昇基調にもマイナスの変化をもたらしそうです。