2024年11月 vol.276

2024年11月08日

 赤や黄のコントラストが山々を彩り、秋の深まりを感じさせるこの頃です。皆様は秋の行楽シーズンを満喫されましたか。

 

 昨年、厚労省が実施した国民生活基礎調査では、「生活が苦しい」と回答した世帯が前年から8ポイントほど増え、59.6%に上ったことが分かりました。このうち、18歳未満の子供のいる世帯が65%、高齢世帯では59%と前年より10ポイント以上高い数字を示しています。物価高騰や燃料費の高騰の影響などで生活の苦しさが増している可能性が有り、節約志向にも拍車がかかり消費の冷え込みなど経済への影響も懸念されます。先の衆院選での自公過半数割れは、裏金問題に端を発した政治不信と物価高で、正に疲弊した民意を象徴するかのような結果となりましたが、課題山積の中、政治の混乱だけは避けてもらいたいものです。

 

 さて、大手不動産調査会社によると、首都圏の分譲マンション賃料が3ヶ月連続の下落を示しことが分かりました。市場では、昨今の分譲価格の急激な上昇に伴い、投資家は相応のリターンを求めるため、連動して賃料は上昇傾向にありました。また、分譲価格の高騰で購入を見送り賃貸へ流れる消費者も少なくなく、こうした特需も追い風となり、高額帯の物件を中心に賃貸市場を下支えしてきたと言えます。ところが、ここにきての賃料下落は、期待利回りの高まりと所得の伸び悩みの乖離がもたらした結果とも言え、住み替えなどの潜在的意欲にも節約志向の影響が圧力となっている可能性さえ考えられます。実際に、某リサーチ会社の調査結果では、今年上期の引っ越し理由のトップには、人気の設備や仕様を抑え、「賃料の減額」が挙げられたほど切実です。

 

 このような市場の変化をよそに、今後供給される物件の多くは、従来の継続賃料を上回ると予測されます。既存物件でも入居入れ替え時の新規募集に関しては、公租公課の負担増や維持管理費のアップなどを理由に、築浅、好立地など競争力の高い物件を中心に増額の動きが見られます。更に新築物件に関しては、そもそも建築費が高騰しているわけですから、投資に見合った賃料設定は当然の流れであり、中には収支を合わせるためにかなり強引な賃料設定も散見されます。その建築費に関しては、ここ数年間で1.5倍程度になったと考えられますが、住宅としての総合評価は価格上昇分を補うだけのコストパフォーマンスは見られません。この間の住宅設備等の進化や洗練された意匠、機能性の向上は評価すべき点もありますが、残念ながら劇的な進化は見当たらず、むしろ随所にコストダウンの痕跡が見受けられ、令和時代の建物が後世でどのように評価されるのか興味深いものがあります。一方で、他社との差別化を図るため突き抜けて高級路線に舵を取るメーカーの動きもあり、まさに市場は二極化が加速している印象です。別の側面から見ても、こうした賃貸住宅の供給は、従来の遊休地活用に代わり土地購入から事業に参画するオーナーが圧倒的多数を占め、高騰する土地建物原価が高額な賃料として反映されていると断言できます。

 

 そして、供給される間取りも特徴的です。面積の大きいファミリータイプでは投資効率が悪いため、採算性の良いシングル向けが主流となり、更に専有面積は最小限に絞られています。バブル期の投資の主役1Kロフトは時代の変遷とともに今やモクサン(木造3階建)1LDKが主流で、その反動もあってか、供給量の少ないRC造ファミリータイプは古くとも安定した入居率を維持しています。理由としては、新築、築浅ファミリータイプの供給が形態を問わず少ないため募集賃料の上昇が顕著で、消費者の選択肢が狭まっているからと考えられます。

 

 これまで何度もお伝えしてきた通り、分譲マンションの価格は高止まりが続き、今後供給されるマンションは更なる販売価格の上昇が予想されています。そうなると、これまで以上に中心部は投資、実需の受け皿は郊外という構図が鮮明となり、富裕層の投資対象となっている中心部のマンションが賃貸で運用されるケースは更に増え続け、前述の高級路線の共同住宅と合わせて高額帯の物件在庫が増加する懸念もあります。結果として、過熱した不動産市場の先に、光と影とも言うべき弊害が現れ始めており、今後の需給関係の推移には注視する必要があります。